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マイクロ法人を設立する動機として、「節税」が大きな理由になることはよくあります。個人事業と比較して、役員報酬の設定や経費処理などで税負担を軽減できるため、法人化を検討する場合があります。
しかし、税務署もその実情を把握しており、形式的な節税スキームや不自然な経理処理があれば、マイクロ法人でも税務調査の対象になります。「小さい会社だから見逃されるだろう」という考えは非常に危険です。
この記事では、マイクロ法人に税務調査が入る可能性、狙われやすいポイント、リスクとその対策について、専門的な視点と実務的なアドバイスを交えて詳しく解説します。
マイクロ法人でも税務調査が入る可能性を理解しよう

一見すると「規模が小さい」「売上が少ない」といった理由から、税務署の目が届かないように思えるマイクロ法人。しかし実際には、税務署が注目しているポイントを押さえれば、調査の可能性は十分に存在します。
特に、節税目的で設立された法人や、個人との関係性が不明瞭な場合、調査のリスクは高まります。ここでは、税務署がどのような基準でマイクロ法人をチェックしているのかを解説します。
節税目的の設立は税務署の注目対象になりやすい
課税所得が一定額(例:900万円以上)を超えて所得税率が高くなる個人事業主や、消費税の課税事業者となる売上1,000万円が見えてきたタイミングで、法人化による節税を検討するケースが多く見られます。
役員報酬を一定額に抑えることで所得税・住民税・社会保険料を軽減したり経費の対象が増えることなどにより、法人側で利益をプールすることができるからです。
しかし、税務署もこのような節税には敏感であり、節税を主目的として設立されたと見なされる場合、税務調査の対象としてマークされやすいです。特に、実態のない法人や、形式的な契約書だけで事業の実体が伴っていない場合は、調査の優先順位が上がります。
また、国税庁が公表する「税務調査事例」でも、ダミー会社の利用による脱税が否認されるケースが定期的に掲載されています。
税務署は取引の実態を重点的に確認している
マイクロ法人では、法人としての取引と個人としての取引の切り分けがあいまいになりがちです。たとえば、自宅を事務所として使用している場合の家賃や光熱費の按分処理、個人名義で購入した物品を法人経費とした場合などが問題になります。
税務署は調査時、以下の点を重点的に確認します。
- 取引先との契約主体が法人か個人か
- 支払・受取口座の名義
- 費用の支出が法人業務に直接関係しているか
法人と個人の取引を明確に分けていないと、経費が否認されたり、課税の対象として再評価されたりすることがあります。
税務調査が入りやすいマイクロ法人の特徴
マイクロ法人でも税務調査が入るケースは少なくありません。特に「節税を目的として設立した法人」や「帳簿や処理が甘い法人」は、税務署から調査対象とされやすい傾向があります。
ここでは、実際に調査が入った事例から見えてくる、税務署に狙われやすいマイクロ法人の特徴を詳しく解説します。どれか一つでも該当していれば注意が必要です。
役員報酬が極端に低いまたは支払われていない
マイクロ法人では、「役員報酬をゼロにして、法人に利益を残せば節税になる」という考えで報酬を支払っていないケースがあります。しかしこれは、個人の生活費などを法人の経費に入れていると判断されるリスクを伴います。
税務署は、役員報酬が著しく低い、もしくはまったく支払われていない法人について、以下の点を確認します。
- 代表者がどうやって生活しているのか(=生活費の出所)
- 法人と代表者個人の資金の流れ
- 帳簿外の売上を代表者個人の隠し口座に入れていないか
経費計上に私的支出が混ざっている
「スマホ代」「飲食代」「ガソリン代」などを法人経費として計上すること自体は、業務に関連していれば問題ありません。しかし、それが業務とは無関係の私的支出だった場合、税務署から否認される可能性があります。
特に狙われやすいのは以下の費目です。
- 家族との外食代(交際費)
- プライベート旅行を兼ねた出張費(旅費交通費)
- 個人用のスマホやパソコンの購入費
税務署は、これらの支出について「業務関連性」を証明できる書類(領収書、行動予定表、契約書など)を求めてきます。業務との関連が曖昧な場合、全額否認されることもあります。
法人と個人の取引内容がほぼ同一
マイクロ法人の代表者が個人でも事業活動を続けている場合、法人と個人の取引が似通っていると「実態が同じではないか、所得を分散するために法人化したのではないか」と疑われます。
例えば、以下のようなパターンが問題視されます。
- 同じクライアントに対して個人名義と法人名義の両方で請求
- 法人の業務内容と個人事業の内容がほとんど同じ
- 法人設立後も、個人名義での売上が続いている
税務署はこうしたケースを「実質的に個人事業と変わらない=形式的な法人化」とみなし、法人に帰属すべき所得を個人に付け替える判断を行う場合があります。
売上規模に対して不自然に経費が多い
売上規模に対して著しく経費額が多い場合、経費の正当性が厳しく精査されます。税務署は、「不自然な経費計上」によって課税所得を意図的に減らしているのではないかという視点で調査を行います。
特に目を付けられやすい経費項目は以下のとおりです。
- 車両費(車の購入、リース)
- 家賃や駐車場代、水道光熱費など(自宅兼事務所の場合)
- 接待交際費や消耗品費
収益性と支出のバランスが取れていない場合は要注意です。帳簿上の整合性だけでなく、取引の裏付け資料があるかを常に確認しておく必要があります。
- 現金出納帳に記録されていない支出がある
- 役員への貸付金の返済がされていない
- 法人口座から個人口座への振込が頻繁にある
税務署は、こうした不明瞭な資金移動を「役員への賞与」や「利益の個人流用」とみなし、厳しく指摘する可能性があります。
マイクロ法人が税務調査で指摘されやすい項目
税務署の調査が入った際、マイクロ法人では特定の会計処理や税務判断が重点的にチェックされます。特に、記帳ミスや税法への理解不足によって、意図せずして違反とみなされるケースも少なくありません。ここでは、実際に税務調査で指摘されやすい具体的な項目について詳しく解説します。これらを事前に把握し、適切に対応することで、調査時のリスクを大きく減らすことができます。
外注費と給与の区分ミス
「業務委託契約で仕事を依頼しているから、外注費で処理している」といった判断はよくあることですが、税務署は実態が“雇用”に近ければ給与と判断します。これは源泉所得税の徴収義務や消費税の仕入控除不可が発生するため、誤った処理をしていると指摘されやすいポイントです。
以下のようなケースは特に注意が必要です。
- 業務時間・場所を法人側が指定して業務を管理監督している
- 業務用機材やパソコンを法人側が支給している
- 報酬が毎月一定額で支払われている
これらが当てはまると、「実質的に従業員」=給与支払とみなされ、未納の源泉徴収税・消費税と延滞税が課される可能性があります。
交際費・旅費交通費などの過大計上
マイクロ法人においては、プライベートな支出を経費に含めてしまうケースが特に多く見られます。その中でも交際費や旅費交通費は、「業務上必要か否か」の線引きが難しいため、税務署の重点確認項目です。
指摘されやすい例としては以下のようなものがあります。
- 家族との旅行を出張と称して経費化
- 趣味仲間との飲食を業務接待として処理
- 経費精算書に日付・場所・目的・相手先の記載がない
これらは「私的支出」と判断されやすく、過大な経費計上や内容不明な経費は即座に否認の対象となるため、明確な証憑や業務関連性を説明できる資料の保存が必要です。
役員貸付金や現金出納の不明瞭な処理
現金の管理が甘いマイクロ法人では、現金の使途や帳簿との不一致がしばしば発覚します。特に「役員貸付金」や「未回収の仮払金」が増えていると、税務署から「実質的に個人の生活費に充てているのではないか」と疑われます。
以下のような状況があれば、調査時に説明責任が問われます。
- 現金出納帳に記録されていない支出がある
- 役員貸付金が計上されているが、利息が取られていない
- 法人口座から個人口座への振込が頻繁にあるものの、帳簿に記録されていない
税務署は、こうした不明瞭な資金移動について「利益の個人流用」と判断するリスクを強く意識しています。
消費税の免税要件の誤適用
2期前の売上が1,000万円未満であれば、法人は原則として消費税の納税義務が免除されます。しかし、以下のような誤認や制度理解不足による免税の誤適用が後に大きなトラブルに発展することがあります。
- 設立2期目で免税と思い込んでいたが、資本金が1,000万円以上であり消費税の免税制度の適用外
- 複数の事業を行っており、合算すると1,000万円を超えていた
- 親会社との資本関係により「特定新規設立法人」に該当しており消費税の免税制度の適用外
こうしたケースでは、本来納税すべき消費税の支払いに加え、延滞税や加算税が課されるため、免税要件を満たしているかの確認を厳密に行うことが重要です。
消費税の免税制度は単に2期前の売上で判定すれば良いのではなく、実際は非常に複雑な判定が求められるうえに、判定を誤った場合は1年分の消費税の納付過大・不足となるためリスクが大きいです。消費税の取扱いに不安のある方は、税理士に相談することをおすすめします。
節税目的のマイクロ法人が注意すべきリスク
節税を目的にマイクロ法人を立ち上げること自体は法律上問題ありません。しかし、節税だけを重視しすぎて実態を伴わない法人運営になってしまうと、税務署から厳しい指摘を受ける可能性が高まります。
ここでは、特に注意すべき代表的なリスクを詳しく説明します。これらを理解しておくことで、トラブルの回避につながり、安心して法人運営を続けられます。
実態のない法人とみなされると否認される
節税のためだけにマイクロ法人を設立し、事業の実体が伴っていない場合、税務署は「形式的な法人(いわゆるペーパーカンパニー)」と判断する可能性があります。法人としての実体がないとみなされると、以下のような問題が発生します。
- 法人に計上していた経費が否認される
- 法人の所得が個人に振り替えられる
- 法人設立そのものが租税回避行為とみなされ、重い追徴課税につながる可能性
特に注意されるポイントは、法人名義の取引や契約、事業用口座、業務内容の明確化です。これらが整っておらず、個人事業の延長のようになっていると、否認の対象になりやすくなります。節税は重要な視点ですが、同時に法人としての実体を明確に保つことが求められます。
追徴課税や重加算税のリスクが高まる
形式的な法人化によって不自然な経理処理を行うと、税務署は過少申告加算税や重加算税などを課す可能性があります。特に重加算税は、最大で本来の税金の50%に達することもあり非常に重い負担になります。
指摘されやすいケースは以下のとおりです。
- 経費として不適切な支出を多く計上
- 個人と法人の資金が混在
- 本来の所得を隠すような処理がある
税務署は、帳簿の記録だけでなく、資金の流れや契約内容の整合性も確認します。曖昧な点があると「故意」とみなされるリスクがあります。
過去分もさかのぼって調査される可能性がある
税務調査では、通常過去3~5年分が対象になります。しかし、不正の疑いがある場合は最大7年分までさかのぼることが可能です。また、消費税については不正還付の疑いがある場合などは特に厳しく調査が行われることがあります。
さかのぼり調査が行われる例としては以下のようなものがあります。
- 役員報酬の不自然な設定
- 個人の生活費を法人経費として処理
- 個人事業の売上を法人に振り替えていた
- 消費税の免税制度を誤って適用していた
過去の処理に誤りがある場合、数年分の追徴課税が一度に発生し、資金繰りに大きなダメージを与えることもあります。日頃から帳簿や証憑を整え、不明瞭な取引を残さない対策が欠かせません。
税務調査を回避・円滑に乗り切るための対策
税務調査は、どれだけ小さな法人であっても無関係ではありません。特にマイクロ法人は、法人と個人の線引きが曖昧になりがちで、税務署からの注視を受けやすい特徴があります。しかし、適切な対策を講じていれば、調査を未然に防ぐ、または円滑に乗り切ることが可能です。
ここでは、マイクロ法人が実践すべき4つの基本的な対策を解説します。
法人と個人の取引を完全に分ける
最も重要なのは、法人と個人の金銭・契約・資産などの関係を明確に区分することです。これが曖昧だと、法人としての実態を確認するために調査に入る可能性があります。
取引の分け方のポイント
- 銀行口座は法人・個人で必ず別にする
- 契約書・請求書・領収書はすべて法人名義で作成・保存
- クレジットカードや通信費も法人専用のものを使用する
- 自宅兼事務所の場合、面積や使用割合に基づいて経費按分を記録
これらを日常的に実践することで、税務調査の際にも「きちんと法人として機能している」と判断される可能性が高くなります。
役員報酬を適正水準に設定する
「役員報酬はゼロにして、法人の利益を残した方が得」と考える方もいますが、これは法人の実態を否定される原因になりかねません。税務署は「法人であれば、代表者に適切な労務の対価を支払うのが当然」と考えているためです。
適正な報酬を設定し、法人経費と私的支出を明確に区分することが、信頼性のある経営の第一歩となります。
証憑や契約書をきちんと残しておく
税務調査では、経費の正当性を裏付ける証憑(領収書・契約書など)が必須です。形式的な書類でも保存していなかったり、記載内容に不足があると、経費が否認される可能性があります。
保存しておくべき書類
- 業務委託契約書(外注費用の裏付け)
- 出張旅費の行程表、宿泊先の明細書
- 会食の相手先、目的、日時を記した記録
- 固定資産の購入に関する見積書・納品書
クラウド会計ソフトを活用すれば、証憑管理の効率化にもつながります。
会計・税務処理は税理士に確認してもらう
マイクロ法人の多くは、「自分で申告すれば節約になる」と考えますが、誤った処理をしている場合、節税どころか逆にリスクを高めてしまいます。特に、制度改正や複雑な税法の適用判断は専門家でなければ難しいのが実情です。
税理士を活用するメリット
- 最新の税制に基づいた正確な申告ができる
- 税務署との交渉や調査対応を任せられる
- 曖昧な処理が事前に指摘され、修正できる
- 節税の余地があればアドバイスを受けられる
特に税務調査に強い税理士を選ぶことで、安心して法人運営ができる環境が整います。費用を懸念する方も多いですが、リスク対策と将来的なコスト削減の観点から考えれば、十分に価値のある投資です。
まとめ

マイクロ法人であっても、節税目的が前面に出すぎていたり、法人の実態が曖昧だったりすると、税務調査の対象となるリスクは十分にあります。
特に、法人と個人の区別がついていない場合や、過大な経費計上、適正でない役員報酬などは、税務署の重点確認項目となります。記事内で紹介したように、税務調査では以下の点が非常に重要です。
- マイクロ法人の設立目的や業務の実態が明確であること
- 法人・個人の取引を明確に分けて管理していること
- 曖昧な処理や説明のつかない支出を避けること
実態がないと判断される法人は、過去にさかのぼって大きな追徴課税を受けるリスクもあるため、法人運営は形式より中身が重要です。この記事を参考に、今一度ご自身の法人の運営状況をチェックしてみてください。
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