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廃業を決めると、日々の経理や申告のプレッシャーから解放されたように感じる方も多いかもしれません。しかし、事業を閉じた後でも税務署による税務調査が入る可能性はゼロではなく、むしろ特定の状況では調査が強化されることもあります。
廃業後の期間は帳簿整理や資産処理が続き、気が緩みやすいため、税務署が着目しやすいタイミングでもあります。廃業後でも税務調査が行われる理由や、税務署が注目するポイント、さらに今できる備えについてわかりやすく解説します。
記事を読むことで、廃業後の税務リスクを正しく理解し、安心して事業の締めくくりを進められるようになります。
廃業しても税務調査が来る可能性を理解しよう
「もう廃業したから、税務署が来ることはないだろう」と思っていませんか?実はその認識、非常に危険です。税務署には過去の申告にさかのぼって調査する権限があり、廃業した後でも税務調査の対象になることがあります。
ここでは、なぜ廃業後でも税務調査が行われるのか、根拠や背景について詳しく見ていきます。
廃業しても過去分の調査権限は残る
税務調査は、「事業をやっているかどうか」ではなく、「過去の申告内容が正しいかどうか」を基準に行われます。つまり、すでに廃業していても、過去に誤った申告や疑わしい処理があれば調査の対象となるのです。
特に以下のようなケースは、調査が行われる可能性が高くなります。
- 高額な売上や経費の計上
- 現金取引が多い業種
- 過去に申告漏れの履歴がある
- 他者からの情報提供があった場合
税務調査は、法律により原則5年間、偽りその他不正の行為があった場合は7年間さかのぼって調査できます(国税通則法第70条・第70条の5)。これは廃業していても変わりません。「廃業=調査が免除される」ではないという点を理解しておくことが大切です。
廃業届の提出が調査のきっかけになることもある
意外に思われるかもしれませんが、廃業届を出したことが税務署にとって「不自然な動き」として注目される場合もあります。
たとえば以下のようなケースです。
- 廃業直前に大きな売上や設備投資がある
- これまで安定していた事業が突然終了
- 個人事業を廃業し、間を置かずに法人成りした
このような背景があると、「資産の移動」や「所得の計上漏れ」などを確認するため、税務調査が行われることがあります。
廃業後に税務調査が入りやすいケース

廃業すれば自動的に調査リスクがなくなるわけではなく、むしろ特定の状況に該当する場合に調査対象になりやすくなります。特に、不自然な売上計上や所得の変動がある場合、税務署は「何か隠していないか」と疑念を持つ可能性が高まります。
ここでは、廃業後に税務調査が入りやすくなる典型的なパターンを紹介します。
廃業直前に大きな売上や経費計上があった場合
廃業前に突如として大きな売上や経費が計上されると、税務署は「意図的な調整ではないか」と注目します。たとえば、以下のような処理がされていると疑いを招きやすくなります。
- 廃業直前に売上を集中して計上している
- 廃業月に高額な備品を一括購入して経費計上している
- 翌期に売上が計上されないよう調整している
こうした処理が不自然に見える場合、「所得隠し」や「経費の過大計上」の疑いがもたれ、税務調査に発展することがあります。
帳簿の不整合や無申告期間が見つかった場合
帳簿と実際の入出金にズレがあったり、過去に無申告だった期間がある場合も、調査の対象になりやすいです。とくに以下のような兆候があると、税務署が注目します。
- 銀行口座の動きと決算書が一致していない
- 1年以上確定申告をしていなかった
- 現金商売で売上の記録が曖昧
帳簿が適切に保存されておらず、数年分の記録が不完全なままだと、過去の申告内容の信ぴょう性が疑われます。
法人成り・事業承継に伴う資産移動が多い場合
個人事業を法人に切り替える「法人成り」や、事業承継時に資産を移動する際も税務署は注目します。このタイミングで、適切な時価評価や譲渡処理が行われていないと、課税逃れと判断されかねません。
たとえば以下のようなケースが該当します。
- 個人名義の資産を無償で法人に移転
- 法人成り時に在庫や設備の評価が行われていない
- 承継者に無償で事業を引き渡している
廃業と同時に資産の異動がある場合は、専門家と相談の上で正しい処理をしておくことが重要です。
個人事業主と法人で異なる廃業後の調査ポイント
廃業後に税務調査のリスクがあるのは、個人事業主も法人も同じです。ただし、調査対象となるポイントや税務署が注目する視点には違いがあります。どちらの形態でも、過去の帳簿や資産処理が適切でなければ調査に発展する可能性が高まるため、違いを理解して備えておくことが大切です。
個人事業主は生活費や家事按分の処理を見られやすい
個人事業主の場合、事業用とプライベート用の資金が混在しやすく、税務署はこの点を特に重点的に確認します。以下のような処理がされていると、調査で指摘を受けることがあります。
- 家賃や光熱費を過大に経費計上している
- 事業用支出とプライベート支出の区分が曖昧
- 売上や経費と事業主貸・事業主借の金額に乖離がある
特に、「家事按分(かじあんぶん)」の処理が不明瞭な場合は、私的支出を経費として計上していると判断され、追徴課税の対象になることもあります。
法人は残余財産や役員貸付金の処理が焦点になる
法人が解散・清算した場合は、会社としての財産処分や役員に対する金銭のやり取りが正しく処理されているかが税務署の関心事になります。以下のような点がチェック対象になります。
- 残った財産の分配が適正か
- 役員への貸付金がそのまま未回収になっていないか
- 清算時の在庫評価や固定資産の処分方法
法人では会計処理の正確性が厳しく見られるため、決算・解散登記・税務申告の流れをミスなく進めることが不可欠です。
また、未回収の役員貸付金がある場合、法人の資金が役員個人に流れていることになるため、法人に課される税金の回収先として役員個人が対象になる可能性もあります。
廃業後に新会社を設立した場合も調査対象になる可能性
事業を一旦廃止し、別法人や別屋号で再スタートする場合、税務署は「実質的な継続」かどうかをチェックします。以下のような条件がそろっていると、調査対象になる可能性が高くなります。
- 同じ所在地・同じ従業員で事業を再開
- 名義だけを変更し、取引先・業務内容が継続
- 個人事業を廃業後、実質的に同じ事業内容の法人を設立して事業を続けている
税務署は「形式的な廃業ではないか」を確認しに来ることがあり、売上計上のタイミングや在庫処理などがチェックされます。
また、法人の設立と解散を繰り返す消費税逃れのスキームがありますが、税務署は厳しくチェックしています。法人の消費税の納税義務は原則2年前の事業年度の課税売上が1,000万円を超えるかどうかで判定されるため、設立2年間は消費税の納税が免除されることがあります。
この制度を利用して2年ごとに法人の設立と解散を繰り返すことで、消費税が永久に免除になると考える方もいます。
しかしながら、そのような手口が認められるわけはなく、それぞれの法人の所有者や事業実態に変化がない場合や明らかに課税逃れのためとみられる場合などには設立と解散の行為が否定され、当初から事業を継続していたものとして追徴課税を受ける可能性が高いといえます。
廃業後の税務調査で指摘されやすいポイント

廃業後に実施される税務調査では、特に「見落とされやすい処理」や「曖昧な経理処理」が重点的に確認されます。
ここでは、廃業後に税務調査で問題視されやすい具体的なポイントを解説します。
売上の過少計上や未申告所得
調査で最も厳しくチェックされるのが売上の過少申告や未申告所得の有無です。以下のようなケースは疑念を招きやすくなります。
- 廃業月の売上を次期に回している
- 現金売上の記録が曖昧で帳簿に反映されていない
- 特定の口座の売上を申告していない
売上の後ろ倒し、帳簿への反映漏れは「意図的な仮装・隠蔽」と受け取られるおそれがあるため、タイミングや記帳内容には特に注意が必要です。
経費処理の不備やプライベート支出の混在
経費に関する処理も税務調査でよく問題となるポイントです。特に、以下のような曖昧な処理は調査官の目に留まりやすくなります。
- プライベートの支出を経費として計上している
- 廃業前にまとめて購入した備品の必要性が不明確
- 経費科目の使い方が年度によって不統一
とくに個人事業主の場合は、事業と私的支出の区分が甘くなりがちなので、証拠書類や領収書の整備が重要です。
帳簿・証憑類の保存不足や記録の欠損
廃業後、帳簿や領収書を処分してしまう人も少なくありませんが、税法では帳簿・証憑類の保存義務(原則7年)が定められています。以下のような状態は調査で問題となります。
- 保存期間中に帳簿が一部紛失している
- 電子データのバックアップがない
- 手書き帳簿に不備が多く、整合性が取れない
記録の欠損があると「故意に破棄したのでは?」と疑われる可能性もあるため、廃業後でも資料はしっかり保管しておきましょう。
廃業後の税務調査に備えるための実践的な対策
廃業後も税務調査の可能性がある以上、「もう終わったから大丈夫」と油断せず、しっかりと準備を整えておくことが重要です。ここでは、廃業後に調査を受けても慌てずに対応できるよう、今からできる具体的な対策を紹介します。
帳簿・領収書・契約書を法令に則って保管する
税法上、帳簿書類の保存期間は以下の通り定められています。廃業後もこの保存義務は継続します。
●個人の場合
・青色申告: 原則7年間
・白色申告: 原則5年間
●法人の場合
・原則として7年間
・ただし、青色申告で欠損金が生じた事業年度や、青色申告の承認を受けなかった事業年度の災害 損失欠損金がある場合は10年間
保管が必要な主な書類は以下の通りです。
- 総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳などの帳簿
- 売上伝票、領収書、請求書、レシート
- 契約書、取引関係の証憑、通帳コピー
これらの資料をきちんと分類し、調査時にすぐ提出できるようにしておくことが、余計な誤解や指摘を防ぐカギとなります。
廃業届・異動届出書を期限内に提出する
廃業時には、税務署などへの届け出が複数必要になります。以下の書類を所定の期限内に忘れずに提出しておきましょう。
| 届出書の名称 | 提出期限 | 提出先 |
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 廃業の事実があった日から1か月以内 | 所轄税務署 |
| 所得税の青色申告の取りやめ手続 | 取りやめようとする年の翌年3月15日まで (※廃業の場合は廃業届と同時に提出することが多い) | 所轄税務署 |
| 消費税の事業廃止届出書 | 事業を廃止した場合、速やかに | 所轄税務署 |
| 【法人】異動届出書 (解散した場合) | 解散後、遅滞なく | 所轄税務署・都道府県税事務所・市町村役場 |
適切な届出がされていない場合、廃業後も「営業中」とみなされて調査や通知が続く可能性があります。
修正申告や説明資料を事前に整理しておく
もし過去の申告内容に誤りや見落としがあることに気づいたら、廃業後であっても修正申告を行うことが可能です。また、将来の調査に備えて、以下のような資料を事前に準備しておくと安心です。
- 高額な経費の使途を示すメモや詳細資料自家消費・家事按分の根拠資料
- 備品・在庫の廃棄証明や譲渡契約書
きちんと説明できる資料があるだけで、調査のスムーズな終了にもつながります。
税務調査で不安を感じたときの対応法
廃業後の税務調査は、すでに事業を閉じているとはいえ、調査対応を誤ると余計な追徴課税や延滞税が発生する可能性もあるため、冷静で正確な対応が求められます。
ここでは、廃業後に税務署から税務調査の通知があった場合の具体的な対処法について解説します。
税務署からの連絡には冷静に対応する
税務署からの通知を受けた際は、まず内容を落ち着いて確認し、感情的に反応しないことが大切です。事前通知では、主に以下の内容が伝えられます。
- 調査の対象となる税目と期間
- 調査の開始日時と場所
- 調査の目的(例:申告内容の確認のため)
- 対象となる帳簿書類など
対応時のポイントは以下の通りです。
- 内容をメモしておく
- すぐに返答できない場合は「後日折り返します」と伝える
- 相手の氏名と所属部署を必ず確認する
不用意な発言や誤解を招く返答を避けるためにも、まずは冷静に状況を把握しましょう。
不明点や疑義は税理士にすぐ相談する
廃業後でも、税務署とのやり取りに不安がある場合は迷わず税理士に相談するのが安全です。専門家の立場から、以下のような対応が可能になります。
- 調査の立会いや調査官とのやり取り
- 書類提出や説明内容の整理
- 必要に応じた修正申告のサポート
もし過去に顧問税理士がいた場合はその方に、いなければ税務調査対応に詳しい税理士への相談を検討すると良いでしょう。
調査当日は税理士立会いのもとで対応する
調査当日に一人で対応するのは大きなリスクです。調査官の質問内容が理解できなかったり、うっかり余計なことを話してしまったりすると、誤解を生む原因になります。
税理士が立ち会うことで以下のメリットがあります。
- 質問の意図を正しく把握して代わりに回答してくれる
- 法的根拠に基づいた説明・反論ができる
- 発言内容を記録し、後日の行き違いを防げる
不安なときこそ専門家と連携し、根拠をもって調査に対応することが、結果的に調査期間の短縮や追徴の最小化につながります。
まとめ

廃業を終えた後であっても、税務調査のリスクは完全には消えません。税務署は過去の帳簿や申告に不備があれば、さかのぼって調査を実施する権限を持っています。
特に、売上の過少申告や経費の過大計上、帳簿の保存不足などがあると、廃業後であっても重点的に確認される可能性があります。
この記事では、税務調査が入りやすいケースや、個人事業主と法人のリスクの違い、さらに実際に調査で指摘されやすいポイントを解説しました。事業をやめたからといって油断せず、帳簿や証憑の保存、届出書類の提出などを適切に行うことが、後のトラブル防止につながります。
調査に不安を感じた際や、資料の整備・修正申告の対応に悩んだときは、税務調査対応に特化した専門家への相談が安心です。税理士法人GNsでは、税務調査対応に関する実績が豊富で、冷静かつ適切なアドバイスが受けられます。
