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税務調査と聞いて、「もしかしたら逮捕されるのでは」と不安になる方は少なくありません。特に過去に申告ミスや帳簿の曖昧さがあった場合、脱税を疑われるのではと心配になるものです。
しかし、実際に逮捕に至るケースはごく一部であり、多くは適切な対応をすれば刑事事件に発展することはありません。この記事では、税務調査と刑事告発の違い、脱税が逮捕に至る基準、そして防止策や対応法まで、専門的な視点でわかりやすく解説します。
精神的な不安を軽減し、安心して今後の対応ができるよう、必要な知識と判断基準を身につけていきましょう。
税務調査で逮捕されることは本当にあるのか
税務調査と刑事事件はまったく異なる手続きであり、すべての調査が逮捕に直結するわけではありません。ここでは、まず税務調査の目的と手法を理解し、「逮捕が必要とされるケースは例外的な状況に限られる」という点を明らかにします。
税務調査と刑事事件の違いを理解しよう
税務調査とは、申告内容に誤りや不正がないかを確認する行政手続きです。刑事事件は、法律違反に対して国家が処罰を科す司法手続きであり、明確に役割が分かれています。
| 項目 | 税務調査 | 刑事事件 |
| 主体 | 税務署・国税局 | 検察・警察(+国税査察官) |
| 目的 | 税務是正、申告内容の確認 | 犯罪処罰 |
| 性質 | 行政調査 | 刑事捜査 |
| 対応方法 | 修正申告・追徴課税など | 起訴・懲役・罰金など |
ほとんどのケースでは「行政調査」で完了し、刑事事件に発展するのは極めてまれです。
任意調査と強制調査(査察/マルサ)の違い
税務調査には次の2種類があります。
| 調査種別 | 内容 | 実施主体 |
| 任意調査 | 通常の税務署による調査(原則事前通知あり) | 税務署・国税局の調査官 |
| 強制調査 | 令状を持って行う刑事調査(通称:マルサ) | 国税局の査察官 |
マルサの調査は「悪質な脱税が疑われるケース」のみで行われ、一般的な税務調査とは性質が大きく異なります。
脱税で逮捕されるケースはごく一部に限られる
実際に脱税で逮捕に至る件数は、国税庁の発表でも年間100件程度にとどまります。以下のような要件を満たす場合に限定されます。
- 意図的な隠蔽・仮装
- 多額の申告漏れ(数千万円〜億単位)
- 組織的・継続的な脱税
- 調査官の調査に協力せず証拠隠滅を図った
単なる申告ミスや一時的な資金繰りによる未納では、逮捕に発展することはまずありません。必要なのは、冷静に現状を整理し、正しい対応をとることです。
脱税で逮捕されるまでの流れを解説

脱税による逮捕に至るまでには、いくつかの段階を経て、慎重に捜査と判断が行われます。税務調査の開始から刑事告発、そして最終的な逮捕・起訴に至るまでには明確なプロセスが存在しており、いきなり逮捕されることはまずありません。
ここではその具体的な流れと、各段階でのポイントを整理して解説します。
税務調査・査察(マルサ)による調査開始
脱税の強い疑いがある場合、水面下で国税局の査察部(通称:マルサ)による情報収集が行われます。査察部では、対象者の過去の申告内容、財務状況、取引先の情報、周囲の関係者情報などから入念に下調べをします。
そこで、故意の脱税や大規模な隠蔽が疑われる場合には、実際に強制調査が開始されます。
マルサによる査察では以下のような手段が用いられます。
- 裁判所の令状に基づく強制捜査
- 事業所や自宅への同時並行的な立入
- パソコン、書類、帳簿、通帳などの押収
- 関係者への聞き取り調査
この段階で対象者は、すでに刑事告発を視野に入れた捜査が進行している可能性が高いことを理解する必要があります。
悪質な脱税が疑われた場合の刑事告発
査察によって重大な脱税の事実が把握されると、国税局は検察庁に「刑事告発」を行います。この告発をもって、行政から司法へのバトンが渡されます。刑事告発に至る基準は明らかにされていませんが、実務上以下のような要件が重視される傾向にあります。
検察庁への告発率は7割程度と高いため、強制調査が入った場合には刑事告発されることを想定して対応すべきといえます。
刑事告発の主な要件
- 意図的な仮装・隠蔽があったと認められる
- 脱税額が高額(数千万円~億円超)である
- 悪質な手法により脱税が行われている
- 反復・継続的な行為と判断される
この告発後、事案は検察庁へ送致され、刑事事件としての捜査が開始されます。
検察官による捜査・逮捕・起訴のプロセス
検察庁に告発が行われると、今度は検察官が主体となって捜査・起訴判断を行います。この段階では、国税局ではなく、完全に刑事手続きとして扱われます。
流れは以下のようになります。
- 証拠と資料の分析・精査
- 対象者の事情聴取
- 逮捕(必要に応じて身柄拘束)
- 起訴または不起訴の判断
逮捕は逃亡や証拠隠滅の恐れがある場合に限定され、すべての脱税事案で必ずしも行われるわけではありません。在宅起訴(逮捕せずに起訴)となるケースも多くあります。
脱税事件が報道・公表されるケース
悪質な脱税事件や社会的影響の大きい事案では、報道機関により実名報道されるケースもあります。これは、納税意識の向上や不正抑止を目的としています。
実名報道されやすいケース
- 金額が高額(数千万円~億円超)の脱税
- 有名企業・社会的立場のある人物
- 組織的・国際的な不正スキームがある場合
- その他社会に与える影響が大きいケース
実名報道は社会的信用を大きく損ね、事業継続や企業経営にも深刻な影響を与えるため、極力避けたい事態です。そのためにも、初期段階での適切な対応が欠かせません。
逮捕されやすい脱税・隠蔽のパターン
税務調査の対象者すべてが逮捕されるわけではありませんが、特定の条件や行為が重なると、刑事告発・逮捕のリスクが高まります。ここでは、過去の脱税事件や国税庁の告発事例をもとに、特に逮捕に発展しやすい脱税・隠蔽行為の典型パターンを紹介します。
多額の架空経費・売上除外など故意的な隠蔽
逮捕に直結しやすいのが、明らかに“意図的”と判断される多額の経費の架空計上や売上の除外行為です。具体的には、以下のようなケースです。
- 架空の外注費・仕入費を計上して経費を水増し
- 実際に発生していない領収書や請求書を作成
- 現金売上を意図的に帳簿から除外
- 売上の一部をプライベート口座に振込させて隠蔽
このような行為が複数年にわたって繰り返されている場合、マルサによる査察や刑事告発につながる可能性が高くなります。
長期間にわたる継続的な脱税行為
一時的なミスや誤認ではなく、5年・10年といった長期間にわたる脱税や無申告状態が行われていた場合も、刑事責任が問われやすくなります。
逮捕リスクが高まる背景
- 意図的に長期間無申告を続けていた
- 税負担を回避し続けていた「故意性」が認められる
- 短期的なミスと比べて悪質性が高いと評価されやすい
- 調査対象年数(最大7年)すべてに不正が及ぶ可能性がある
「一度ごまかしたら、続けざるを得なくなった」という心理に陥る人も少なくありませんが、結果的には「計画的な脱税」と判断される材料になってしまいます。
偽装や虚偽記載など悪質な手口
以下のような虚偽や偽装をともなう手口は、「仮装・隠蔽」として、刑事告発の対象となりやすいです。
- 第三者名義の口座や会社を利用して売上・所得を隠す
- 架空の取引先を使って請求書や領収書、契約書などを発行
- 記帳ソフト上でデータを意図的に削除・改ざん
証拠隠滅を伴う行為は「悪質性が高い」と判断されやすく、逮捕の引き金になり得ます。
関係者を巻き込む組織的な脱税・粉飾決算
経理担当者・取引先・外部の専門家などを巻き込んだ組織的な脱税も、刑事事件として立件されやすい特徴があります。特に、不正に税金還付を行っている場合には、脱税だけでなく詐欺罪(国から税金を詐取した)など他の刑罰も加わるリスクがあります。
関係者を巻き込む例
- 社長の指示で経理担当者が売上を除外
- 顧問税理士が不正に関与していた場合
- 取引先と共謀して架空の業務を発注していた場合
- 架空仕入先との共謀で経費を偽装
- 取引を偽装して、消費税などの不正還付を実行していた場合
組織ぐるみで脱税が行われていたと判断されると、会社の信用が完全に失墜し、社会的制裁も大きくなります。
脱税で逮捕された場合の刑罰・社会的影響

万が一、脱税により逮捕・起訴されてしまった場合、刑罰だけでなく社会的信用の失墜や事業継続への影響も深刻です。ここでは、脱税が刑事事件として扱われた際に想定される法的な罰則・身柄拘束の流れ・社会的制裁について詳しく解説します。
刑事罰の種類(懲役・罰金・追徴課税)
脱税に対して科される刑罰は、所得税法や法人税法、消費税法などの各税法に基づいて定められています。特に「仮装・隠蔽」が明らかな場合は懲役刑や罰金刑が科されることもあり、実刑判決に至る事例も実際に存在します。
さらに、刑事罰と同時に追徴課税や加算税も課され、経済的な負担も大きくなります。
逮捕・起訴後の身柄拘束や前科の影響
逮捕された場合、被疑者は身柄拘束を受け、この間、原則として外部との連絡は制限され、業務への復帰が困難になります。また、起訴されて有罪判決が確定すれば、「前科」が付き、以下のような影響を及ぼします。
- 取引先や顧客との信頼関係が崩れる
- 金融機関からの融資が停止・回収される
- 公的な許認可が取り消される可能性がある
たとえ執行猶予付きの判決でも、経営者・個人事業主にとっては極めて重い社会的リスクを背負うことになります。
実名報道・信用失墜など社会的ペナルティ
脱税事件は、金額や影響の大きさによっては新聞・テレビ・インターネットなどで実名報道されることがあります。特に以下のような場合に報道対象になりやすい傾向があります。
- 脱税額が数千万円〜億円単位に達する場合
- 社会的地位がある人物(経営者、医師、士業など)
- 組織ぐるみの脱税や粉飾が行われた場合
このような報道がされると、
- 検索エンジンで名前が出続ける
- 企業ブランドが地に落ちる
- 従業員の離職や取引停止が相次ぐ
など、刑罰以上に長期的で深刻なダメージを受けることになります。
脱税で逮捕されないためにできること
脱税で逮捕されるケースは極めて限定的ですが、日頃の経理処理や税務対応に問題があれば、意図しなくても“悪質な脱税”と誤解されるリスクがあります。逮捕を回避し、健全な事業運営を継続するためには、「見られても問題がない経理体制」を常に整えておくことが最善の予防策です。
ここでは、脱税リスクを防ぐために経営者・事業者が実践すべきポイントを紹介します。
経理・帳簿を透明化してリスクを減らす
税務調査で最初に確認されるのは、帳簿や証憑(領収書・請求書など)の管理状況です。ここが整っていないと、「何か隠しているのでは」と疑念を持たれる原因になります。
経理透明化のポイント
- 会計ソフトを活用して仕訳・月次集計を正確に行う
- 領収書・請求書は日付順・取引先別にファイリング
- 現金出納帳・預金通帳との整合性を定期的に確認
- 経費の支出はプライベートとの区別を明確に
帳簿と証憑の一貫性が確保されていれば、税務署も安心して調査を終えることができ、逮捕や告発のリスクは減らせます。
税務調査前に修正申告・自主的な対応を行う
過去にミスや申告漏れに心当たりがある場合、税務調査が始まる前に「自主的に」修正申告を行うことが非常に有効です。国税庁も、自主的な申告は考慮すべき事情として扱うとしています。
修正申告のメリット
- 加算税が軽減または免除されることがある
- 「隠蔽の意図なし」として告発を回避できる可能性が高い
特に、「仮装・隠蔽」と誤解されやすいケースでは、早期の修正対応がリスク軽減に直結します。
不明点は税理士や専門家に相談して適切に処理する
脱税と申告ミスの境界は、専門知識がないと判断が難しいケースが多々あります。自己判断で処理を進めるのではなく、早い段階で税理士などの専門家に相談することが、安全な経営の鍵となります。
専門家へ相談すべき場面
- 税務署からの問い合わせや調査通知が届いたとき
- 複雑な取引やイレギュラーな資金の動きがある場合
- 節税対策と脱税の線引きに迷うとき
税理士法人GNsでは、税務調査対応に特化したプロフェッショナルが、修正申告のサポートや税務調査対応のアドバイスを行っており、多くの事業者が安心して調査を乗り越えています。
早めの相談こそ、逮捕や刑事告発という最悪の事態を防ぐ最良の手段です。
逮捕リスクを感じたときの具体的な対応
「もしかしたら脱税と見なされるかもしれない」「調査官の様子が厳しくなってきた」と感じたとき、最も重要なのは冷静に、かつ速やかに専門家と連携を取ることです。ここでは、逮捕や刑事告発のリスクを少しでも減らすために、実際に取るべき具体的な対応策を解説します。
税理士への早期相談で防御体制を整える
調査中または通知が来た段階で、「脱税と誤解されるかも」と不安に思ったら、まずは税務調査対応に精通した税理士に相談することが最優先です。専門家の助言があれば、税務調査への不安は減るでしょう。
また、国税局査察部による強制調査の場合には、告発・起訴も見据えて弁護士に相談することも重要です。
専門家に相談するメリット
- 調査官とのやり取りを戦略的にサポートしてもらえる
- 不利な証言や対応を避けられる
- 修正申告・税務処理の正しい流れを明確にできる
- 刑事告発されないための着地点を一緒に見つけられる
特に、税理士法人GNsでは「税務調査対応サービス」を展開しており、初期相談から実地調査の立ち会い・交渉・申告書の修正までフルサポートしています。早期に相談することで手遅れを防げます。
調査官への対応方針を専門家と共有する
税務調査では、調査官からの質問への「回答内容」や「態度」も、その後の判断に影響を与えます。専門家と連携し、どの情報をどのように伝えるべきかをあらかじめ決めておくことで、誤解やリスクを防ぐことが可能です。
共有すべきポイント
- 調査官が注目している領域(経費・売上など)
- 説明の一貫性を保つためのメッセージ整理
- 回答を「簡潔かつ正確」にする予行演習
- 曖昧な点は「確認後回答します」とする判断基準
「言いすぎて墓穴を掘る」「話が食い違って疑いを招く」といったミスを避けるには、事前の準備と打ち合わせが非常に有効です。
今後の税務体制を改善して再発防止を図る
仮に一部で申告漏れや帳簿の不備があった場合でも、その後の改善姿勢が明確に示されていれば、調査官の印象が大きく変わります。そのためには、税務体制の見直しと再構築が必要です。
改善すべき主なポイント
- 会計ソフトの導入またはアップグレード
- 社内の経理フローのマニュアル化
- 月次チェックの仕組み作りと税理士との定期連携
- 領収書・請求書のデジタル化と整理体制の構築
まとめ

税務調査と聞くと「逮捕されるのでは」と過度に心配される方も多いですが、実際に逮捕に至るのは全体のごく一部に限られています。大多数のケースでは、申告ミスや帳簿の不備に対して修正申告や追徴課税で解決でき、刑事告発や実名報道まで発展することはほとんどありません。
とはいえ、意図的な隠蔽や虚偽記載など「悪質」と見なされる脱税があった場合には、マルサの調査や刑事告発、そして逮捕にまで至るリスクもゼロではないのが現実です。そのため、早期の修正申告、証憑の整理、専門家への相談が、最も有効なリスク回避策となります。
税理士法人GNsでは、税務調査対応に特化した体制を整え、調査通知の段階から修正申告、調査官対応までワンストップで支援しています。
不安を感じている経営者・個人事業主の皆さまに寄り添い、調査を穏便かつ短期で終わらせ、リスクを未然に防ぐことをミッションとしています。
「もしかしたら脱税と見なされるかも」と不安を感じたら、一人で悩まず、税理士法人GNsに早めにご相談ください。
