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法人を廃業したと思っていても、正式な手続きを完了していないと申告義務は残り続けます。特に注意したいのは「解散登記はしたけど申告していない」「休眠にしたつもりが実は放置だった」というケースです。
これらはすべて、無申告状態と判断され、税務署から追徴課税や調査対象になる可能性があります。
本記事では、法人を廃業・休眠・放置したままにすることのリスクと、適切な手続きの流れ、修正申告の方法、復活時の注意点までを詳しく解説します。
税務署に指摘される前に、正しい対処法を知って行動することで、追徴課税を回避し安心して法人の整理・再開を行うことが可能になります。
法人が無申告のまま廃業・放置するとどうなる?
法人を廃業したと認識していても、法人格が残っている状態であれば、その法人は「存続している」とみなされます。実質的に廃業状態にあったとしても、法人登記を抹消し清算手続きを完了させるまでは、正式な廃業にはならず、結果的に「無申告状態」が続くことになります。ここでは、そのリスクと背景について解説します。
法人格が残っている限り申告義務は続く
「もう事業をやっていないから申告しなくていい」と思いがちですが、解散登記や残余財産の分配、清算結了登記が完了していない限り、法人格は存続しているため、毎年の法人税などの申告義務が続きます。
このようなケースに注意
- 事業を停止したが登記はそのまま
- 解散登記は行ったが、残余財産の分配、清算結了登記が完了していない
- 代表者が変更されたまま放置
たとえ売上がゼロでも、「ゼロ申告」や「休眠の届出」を出さなければ無申告とみなされるため、放置は非常に危険です。
無申告が長期化すると追徴課税や税務調査のリスクが高まる
無申告状態が2年、3年と続いていくと、税務署は「仮装・隠蔽の可能性あり」と判断しやすくなります。
その結果、以下のようなペナルティが課されるリスクがあります。
- 過去数年分の申告義務の遡及
- 本税に加えて、延滞税・加算税の賦課
- 税務調査の実施と帳簿調査による追及
特に、意図的に申告を怠っていたと判断されれば、重加算税の対象となることもあります。
登記・申告のいずれかが欠けていると申告義務が残り続ける
廃業には2つの手続きが必要です。
- 【法務局】での登記手続き(解散登記・清算結了登記)
- 【税務署】への確定申告(解散事業年度にかかる確定申告・清算確定申告)
このどちらかが欠けている場合、法人は「廃業していない」とみなされ、申告の義務が残り続けます。そのまま放置してしまうと、突然督促状や税務調査通知が届くこともあるため、抜け漏れのない対応が不可欠です。
法人廃業の正しい流れを理解しよう

法人を適切に廃業するためには、会社法と税法の両面から正しい手続きを踏むことが必須です。ただ単に事業をやめるだけでは、法人格や申告義務は消えません。
ここでは、法人廃業の基本ステップを3つに分けて解説します。この流れをきちんと実行すれば、無申告リスクや将来的なトラブルを防ぐことができます。
株主総会で解散を決議し清算人を選任する
法人を廃業するには、まず株主総会を開き、解散を正式に決議する必要があります。その際、清算人の選任も同時に行うのが一般的です。
手続きの流れ
- 株主総会を開催し「会社解散」の特別決議を行う
- 清算人(通常は代表取締役)を選任する
この決議が法人解散の出発点となり、以後の登記や税務申告にも必要な手続きとなります。清算人には、資産処分や税務申告の責任が生じるため、役割を正確に理解しておくことが重要です。
解散登記・清算結了登記で法人格を正式に消滅させる
解散を決議したら、次に行うのが法務局での登記手続きです。この登記を完了しない限り、法人格は残ったままとなります。
2つの登記が必要です
| 登記名 | タイミングと内容 |
| 解散登記 | 解散決議後2週間以内に行う。清算人の就任も登記。 |
| この間に、「資産や負債を整理して財産目録の作成」、「残余財産の確定・分配」、「債権者保護手続き」が必要となる。 | |
| 清算結了登記 | 株主総会で清算事務報告の承認を受けた日から2週間以内に行う。 |
また、清算結了登記をもって法人格が正式に消滅します。これを怠ると、「事業をしていないのに法人は残っている」状態となり、無申告リスクが続いてしまいます。
清算確定申告と法人税などの精算を行う
法人の解散・清算では、通常の確定申告とは別に、以下の2種類の申告が必要となります。
| 申告種別 | 内容と提出時期 |
| 解散事業年度の確定申告 | 解散日の翌日から2ヶ月以内に提出。直前の事業年度末の翌日から解散の決議をした日までの期間が対象。 |
| 清算確定申告 | 残余財産確定から1ヵ月以内に提出。残余財産の分配などを含めた精算を行う。 |
これらの申告をしなければ、税務署は法人の解散を認識せず、「無申告法人」として調査対象になる可能性があります。税理士に依頼すれば、適切な申告と税額精算がスムーズに行えます。
清算・休眠・放置の違いと無申告リスク
法人を事業停止状態にする際、「清算」「休眠」「放置」という似たような状態がありますが、それぞれ法的・税務的な意味がまったく異なります。この違いを正しく理解していないと、無申告扱いとなり、税務署から調査対象になるリスクがあります。
ここでは、これら3つの状態の違いと、それぞれに潜むリスクについて詳しく解説します。
清算は法人格を消滅させる正式な手続き
「清算」は、法人としての存在を完全に終了させるための正式な手続きです。
法務局での解散登記・清算結了登記、税務署への解散事業年度の確定申告・清算確定申告が完了すると、法人格は消滅します。
清算の特徴
- 登記・税務申告が完了して法人そのものがなくなる
- 今後の申告義務は一切なくなる
- 残余財産は清算し、出資者などに分配する
このように全ての義務を果たし、キレイに法人をたたむことができるのが「清算」です。今後のリスクをゼロにするためには、この手続きが最も確実です。
休眠は一時停止であり申告義務が続く
「休眠」とは、法人としての活動を一時的にストップしている状態を指します。税務署や自治体に休業する旨の異動届出書を提出することで、休眠法人として扱われます。
注意すべきポイント
- 法人格は残っているため申告義務も継続
- 売上ゼロでも「ゼロ申告」が必要
- 法人住民税の均等割は原則として免除
つまり、「何もしていないから何もしなくていい」というのは誤りです。休眠にする場合も、正しい届出と年1回の申告を怠らないようにしましょう。
特に、休眠の異動届出書を提出しないと法人住民税の均等割は発生し続けてしまうため注意しましょう。
放置は無申告扱いとなり税務署から調査対象になる可能性がある
もっともリスクが高いのが「放置」です。何の手続きもせず、登記も申告もせずに放置している法人は、税務署から見れば「無申告法人」となります。
放置の結果、起こりうる事態
- 税務署から調査通知や督促状が届く
- 重加算税・延滞税が課される
- 過去何年も遡及して調査される
また、放置された法人が知らないうちに悪用されるリスク(名義貸し、詐欺目的の利用など)もあり、非常に危険です。
法人を休眠または廃業する場合は、必ず正式な手続きを行うようにしましょう。
法人無申告が発覚した際に起こるペナルティ
法人を廃業したつもりでも、申告や登記が完了していなければ「無申告」とみなされ、税務署から厳しいペナルティが科される可能性があります。特に長期間にわたり放置していた場合、その影響は深刻です。ここでは、無申告が発覚した場合にどのようなペナルティがあるのかを解説します。
ただし、廃業や休業した場合には通常所得は発生しないことから、課されるペナルティの金額も限定的である可能性が高いといえます。
本税に加えて加算税・延滞税が課される
無申告が発覚すると、まず課されるのが本来納めるべき税金(本税)に加えて、加算税と延滞税です。
代表的な税負担の内訳
| 税の種類 | 内容 |
| 本税 | 申告すべきだった法人税・消費税など |
| 無申告加算税 | 正当な理由なく期限内に申告しなかった場合に課税 |
| 延滞税 | 納付期限を過ぎた日数に応じて加算 |
加算税・延滞税だけで数十万円〜百万円単位になることもあり、法人にとって大きな負担になります。
青色申告の取り消しや社会的信用低下のリスク
無申告が続くと、税務署はその法人に対して青色申告承認の取消しを行うことがあります。これにより、翌年以降の節税メリットが使えなくなるという不利益が生じます。
主な影響
- 欠損金の繰越控除が使えなくなる
- 特別償却などの特例が使えなくなる
2期連続で期限後申告(無申告含む)となった場合、青色申告が取り消されることになりますので、休眠した場合であっても期限内にゼロ申告を行うことをおすすめします。
過去に無申告だった法人の再申告・修正方法
「廃業したと思っていたけど、実は無申告だった」と気づいたときでも、すぐに適切な対応を取れば重いペナルティを回避できる可能性があります。ここでは、過去に申告漏れがあった法人がとるべき修正申告・期限後申告の流れとポイントを解説します。
過去の決算書・帳簿を整理し期限後申告を行う
まず行うべきは、過去の会計資料を整理し、申告すべき期間の決算を再構築することです。売上がない場合でも、申告義務は消えません。
再申告の基本ステップ
- 該当年度の通帳・領収書・請求書・帳簿などを収集
- 会計ソフトまたは税理士のもとで決算書を作成
- 期限後申告書を税務署へ提出し、納税を行う
帳簿が散逸している場合でも、通帳の入出金履歴や過去の取引書類をもとに再構築が可能です。何もしないままでいるより、誠実に情報を集め直すことが重要です。
税務署に自主的に申告すればペナルティ軽減の可能性あり
期限後でも、自主的に申告を行った場合は加算税の軽減措置が適用されます。
また、税理士と連携して申告を行うことで、税額の計算や申告書の作成・提出、税務署とのやり取りもスムーズに進み、早期に申告が済み、結果としてペナルティを軽減できる可能性があります。
期限後申告でも誠実な対応を示すことが重要
申告期限を過ぎた場合でも、その後の対応姿勢が大切です。特に重要なのは、必要な書類を揃え、正直に状況を説明し、ミスを隠そうとしないことです。
対応のポイント
- 申告漏れの理由を明確に説明する
- 可能な限りの帳簿や証拠資料を添付する
- 今後の再発防止策を提示する(顧問税理士の契約など)
税務署は、「隠していた」のではなく「対応を知らなかった・遅れた」と認識できる場合には、重加算税の対象とせずに単なる修正対応にとどめるケースもあります。そのため、逃げずに正面から向き合うことが、法人の未来にとって最良の選択となります。
法人を廃業・清算する際に必要な手続き一覧

法人の廃業には、法務局・税務署・自治体・社会保険関係機関など複数の手続きが伴います。いずれか1つでも抜けていると、法人が残存扱いとなり、税務署から通知や調査を受けるリスクがあります。ここでは、法人を正式にクローズするために必要な手続きを一通り確認しておきましょう。
税務署・都道府県税事務所・市町村への届出
法人を廃業した際は、税務署だけでなく地方自治体にも届出が必要です。それぞれの提出書類と目的を以下にまとめました。
| 提出先 | 必要な届出書類 |
| 税務署 | ・異動届出書 ・解散事業年度の確定申告書 ・清算確定申告書 |
| 都道府県税事務所 市町村 | ・異動届出書 ・解散事業年度の確定申告書 ・清算確定申告書 |
これらの届出が完了していなければ、法人住民税の均等割などの納税義務が継続することもあります。提出期限や書式は自治体ごとに異なるため、事前の確認が必須です。
社会保険・雇用保険などの事務手続き
従業員がいた法人や、代表者のみの役員報酬を支払っていた法人であっても、社会保険・労働保険の喪失手続きが必要です。
主な手続き
- 健康保険・厚生年金保険の適用事業所全喪届(日本年金機構)
- 雇用保険の資格喪失届(ハローワーク)
- 労働保険の労働保険確定保険料申告書(労働基準監督署)
法人を廃止しても、こうした労務関連の義務が発生するため、漏れがないようチェックリストを作成して対応することをおすすめします。
清算結了登記と解散公告の実施
法人の法的な消滅には、2段階の登記手続きと官報公告が必要です。これを怠ると、登記上は法人が存続している扱いとなり、無申告と見なされるおそれがあります。
手続きの流れ
- 解散登記
株主総会の決議後、2週間以内に法務局へ提出。清算人も同時に登記します。 - 債権者公告(官報)
官報に「解散に伴う債権者への公告」を掲載。期間は2ヶ月以上とされます。 - 清算結了登記
資産処分、債務弁済、残余財産の分配などがすべて完了した後、株主総会で清算事務報告の承認を受けた日から2週間以内に法務局へ提出します。
これらの手続きを終えて初めて、法人格は完全に消滅し、将来的な申告義務や税務リスクからも解放されます。
無申告法人が再開・復活する場合の注意点
一度休眠や放置状態となった法人でも、「再開したい」と思ったときにすぐ再稼働できるわけではありません。とくに無申告のまま放置していた法人には、過去の申告義務や税制上の不利益が残っている可能性があります。ここでは、法人を再開・復活する際に気をつけるべきポイントを解説します。
休眠中でも均等割が発生している可能性がある
法人が休眠状態でも、法人住民税の均等割(最低年間7万円前後)は課税されます。申告や納付をしていない場合、自治体から延滞金や督促が発生している可能性があるため注意が必要です。
確認すべきポイント
- 過去の均等割の未納・未申告がないか
- 自治体からの通知・督促状が届いていないか
- 都道府県・市町村への異動届(休眠届出)が正しく提出されているか
再開前には、法人が設立された自治体に問い合わせ、過去の納税状況を確認することが推奨されます。
青色申告承認が失われている場合は再申請が必要
無申告状態が続くと、税務署から青色申告承認の取消通知が出されることがあります。青色申告が取り消されている場合、再開後は原則として白色申告となり、税制上の特典が受けられません。
主な影響
- 欠損金の繰越控除ができない
- 取得価額30万円未満の少額資産を即時償却できない
- 減価償却の選択が制限される
再度青色申告を行いたい場合は、「青色申告の承認申請書」を税務署に提出し、翌期からの適用を受ける必要があります。
再開時は過去分の帳簿整備と期限後申告を済ませておく
法人を再稼働する前には、過去の無申告状態を解消する必要があります。帳簿や証憑が残っていない場合でも、通帳や取引履歴をもとに再構築し、期限後申告を行うことが重要です。
対応の流れ
- 放置していた期間の決算・申告を再構築
- 税務署に申告書を提出
- 必要があれば修正申告や加算税の納付も行う
このプロセスを適切に踏むことで、過去のリスクを整理した上で健全な法人運営に戻ることができます。税理士と連携して進めることで、ペナルティの軽減や円滑な復活が可能になります。
法人無申告を防ぐための実践的対策
法人の無申告は「うっかり忘れていた」だけでも、重大なペナルティの対象となります。特に中小企業や個人経営の法人では、申告や登記のスケジュールを管理できず、知らぬ間に放置状態となることも珍しくありません。ここでは、無申告を未然に防ぐための実践的な対策を紹介します。
税務顧問・会計ソフトを導入して申告漏れを防止
日々の経理処理から決算・申告業務までを自社だけで管理するのは非常に困難です。そこで有効なのが、税務顧問の契約やクラウド会計ソフトの活用です。
導入のメリット
- 会計ソフトと口座やクレジットカードを連携することで仕訳入力の手間が軽減される
- 税理士と連携することで帳簿作成・申告書類の作成が正確に
- 税務署からの問い合わせにも迅速対応が可能
特に、税務署の調査対応や無申告のリスクが気になる法人には、税務調査に強い専門家と顧問契約を結ぶことが最大の防衛策となります。
年1回の決算・登記スケジュールをルーティン化
休眠中や売上ゼロの法人でも、毎年の決算・登記確認は必須です。これを「決算月=法人メンテナンス月」としてルーティン化しておけば、申告漏れや登記忘れのリスクを大幅に減らせます。
実践例
- Googleカレンダーなどで決算日・申告期限をアラート登録
- 毎年同じ時期に税理士と決算内容の確認ミーティングを設定
- 登記情報の確認と更新もこの時期に一括で行う
システム的に習慣化することで、「うっかり」のリスクを確実に回避できます。
税理士に廃業・清算・休眠の最適な方法を相談
「いつ法人を畳むべきか」「一時的に休眠させるべきか」「登記だけ残して良いのか」など、判断に迷うときは、税理士に相談するのが最も確実な方法です。
税理士相談で得られるメリット
- 状況に応じた最適な廃業・休眠・清算プランを提案してもらえる
- 必要な書類や手続き、提出先をすべて網羅的に管理
- 放置リスクや重加算税の回避についても事前に対策が取れる
税理士法人 GNsは税務調査・無申告対応に強い専門家です。法人の廃業や休眠、清算に関することはもちろん、無申告状態が続いている場合もお気軽にお問い合わせください。
まとめ

法人を廃業したつもりでも、登記や申告を行っていなければ、無申告法人として扱われ、税務署の調査対象となるリスクがあります。法人格が残っている限り、たとえ事業を行っていなくても、税務署や自治体への届出・申告義務は継続している点に注意が必要です。
今回解説したように、廃業には「登記」「届出」「申告」の3点すべてを正しく完了させることが不可欠です。もし過去に放置していた法人がある場合でも、早めに帳簿を整理し、税理士と連携して期限後申告を行えば、ペナルティを最小限に抑えることが可能です。
税理士法人GNsは、税務調査や無申告対応に特化した実績豊富な税理士法人です。不安がある方は、税務調査を受ける前に早めにご相談ください。
